2010年10月31日日曜日

競争の戦略


M.E.ポーター

競争の戦略

ビジネス書の大きな分野の1つに『戦略論』があります。

日本人は欧米人に比較して戦略がないと言うことはよく言われています。

医療に関しても、戦略はあまりなじみがないと思います。

そういった意味では、戦略を学ぶことは、あまり役立たないかもしれません。

しかし、この著者であるM.E.ポーター教授はこの著書の次に、

医療改革を研究し、『医療戦略の本質』を書きあげています。

それをより理解するためにも、戦略論の中でも、

教科書的な存在である本著を読むことをお勧めします。


戦略論にはいくつか種類や流行りがあります。

(1)戦略計画学派

(2)創発戦略学派

(3)ポジショニング・ビュー

(4)経営資源・ベースド・ビュー

(5)ゲーム論的アプローチ

このうち、ポジショニング・ビューは、

あるポジションを占めると儲かるという市場の法則性に基礎をおいて、

個別事業の競争戦略構想や、

選択や集中の決定を進めていく戦略的思考のことで、

その典型のひとつが、ポーター教授の業界の構造分析になります。

産業内における5つの競争要因(競合、新規参入、代替品、買い手、売り手)を

明らかにし、自社に有利に働き、

競争を支配しうるポジショニングを見いだす理論です。


なにか、事を起こそうとしたり、変えようとした時、

だれでもまずは内的要因に目を向けて検討します。

でも、内的要因だけでなく外的要因も重要です。

以下、気になったところの、まとめです。


競争戦略策定のプロセス

A 企業がいまやりつつあるものは何か?

①どんな戦略か?;明示的か暗示的かは問わず、現在の戦略は何か?

②戦略の基礎となっている仮説は何か?;現行の戦略の狙いが理解されるには、

会社の相対的地位、長所と弱点、競争相手、業界の動向についての仮説を明らかにしなければならない


B 企業環境になにがおこりつつあるか?

①業界分析;競争に成功する中心要因および業界での好機と脅威の主要なものは何か?

②競争業者分析;既存および今後予想される競争業者の能力と欠点、

さらに、これら競争業者の今後の行動は何か?

③社会分析;政府、社会、政治からのどんな重要要因が、好機あるいは脅威をもたらすか?

④自社の長所と弱点;業界分析、競争業者分析の結果、

現在および将来の競争業者と対比した場合の、自社の長所と弱点は何か?


C 企業は今後何をしなければならないか?

①仮説と戦略の点検;現行の戦略の基礎となっている仮説が、

上のBでの分析と比較してみて、正しいかどうか?

②どんな戦略がありうるか;上の分析の結果、

今後可能な戦略案としてはどんなものがあるか(現行戦略もそれらの1つなのか)

③ベスト戦略の選択;外部要因である好機と脅威に対して、

内部要因である自社能力を考えて、ベストの戦略案はどれか?


5F(業界構造分析):

競合他社、新規参入業者、代替品、売り手、買い手


3つの基本戦略

コストのリーダーシップ

差別化

集中


業界内部の構造分析後に戦略的に利益機会をとる方法

・新しい戦略グループを作る

・より好ましい状況にある戦略グループに移動する

・現在所属している戦略グループの構造上の地位の強化、グループ内での自社の地位の強化

・新しい戦略グループに移り、そのグループの構造上の地位を強化する


多数乱戦業界の競争戦略

手順1:業界の構造はどうか?競争業者はそれぞれどういう位置にいるか?

手順2:多数乱戦の原因はなにか?

手順3:多数乱戦状態を変えられるか?その方法は?

手順4:変えて利益が得られるか?その場合、自社はどういう位置にいなければならないか?

手順5:多数乱戦が避けられない場合、どう対処するのが最善か?

低コスト、製品差別化、集中の3つの基本戦略を状況に当てはめてみる

付加価値を高める、特定地域に集中するなど

2010年10月24日日曜日

ザ・ゴール


エリヤフ・ゴールドラット

ザ・ゴール

著者の言葉より抜粋

日本人は、部分最適の改善にかけては世界で超一流だ。
その日本人に『ザ・ゴール』に書いたような全体最適化の手法を教えてしまったら、
貿易摩擦が再燃して世界経済が大混乱に陥ってしまう』

という著者の意向もあり、日本での出版が許可されなかったいわくつきの一冊です。


採算悪化を理由に、突然、本社から工場閉鎖を告げられた主人公アレックス。

残された時間は、わずかに3か月。

起死回生の策はあるのか?


工場閉鎖まで3カ月の猶予しかない工場の業務改善プロセスを描いたものですが、

小説仕立てで制約条件の理論(TOC)を学べます。

ストーリーを通して、TOCを体験し、その原理を理解することができます。


『ボトルネック』といわれて、ピンとこない方は、一読をお勧めします。

ぼくは、これを読むまで、いまいち良くわかっていませんでした。


例えば、ボトルネックがある場合、

工場全体の生産量はボトルネックの生産量で決まってしまう。

そこで。。。

(1)ボトルネックに集中する

(2)ボトルネック以外の工程では、ボトルネック工程よりも速くものを作ってはいけない

(3)ボトルネック工程の前には適切な在庫を置くべき。

これは工場の中の加工時間に統計的ばらつきがあるためである。

2010年10月9日土曜日

統計学を拓いた異才たち


デイヴィッド・サルツブルグ

統計学を拓いた異才たち


医療(臨床も含めて)に統計のスキルは必須です!!


医療に対する統計学には、大きく分けて2つあると思います。


1)1つは、論文などで得た知識をいかに目の前の患者さんに還元するかというスキルです。

これはいわゆるEvidence-Based Mdeicine(EBM)と呼ばれることで、

これに関連する書籍は多く、自己学習は可能であると思います。

EBMがどれだけ役に立つものかは、それを修得した者だけが語れます。

確かにEBMは万能ではありません。

しかし、限界があるから身につけないというのは間違っています。

これは臨床医にとって患者さんの治療に役立つスキルです。

患者さんのためになる可能性があるスキルがあるのに、

それを習得しないのは、プロフェッショナルリズムにおとります。


2)もうひとつは、得られた臨床データをいかに統計学的スキルを用いて要約するかです。

こちらがいわゆる統計学のスキルになります。

正直、これといった教科書は少なく、独学では挫折しやすい領域です。

いろいろ教科書を読みながら、『R』などの統計ソフトを用いて、

自分の臨床データをごちゃごちゃ触っているうちに、身についていくものです。

人間の認知力には限界があります。

特に、因果関係や、確率の認知は、我々が思っている以上に限界があります。

臨床医が経験を積んでいくうえで、自分の経験を誤った方向に認知しないためにも、

臨床データから、客観的に自分の診療をながめることは、重要なことです。


さて今回紹介する『統計学を拓いた異才たちは』は、

なかなか習得するのに挫折することが多い統計学に対する、

20世紀の近代統計学における、数多くのエピソードとともに綴る統計学史です。

ピアソンとフィッシャーが繰り広げる知恵比べ

t検定のtとビール会社の関係は?

もちろん医療における統計学のかかわりも多く登場します。

こうした歴史というストーリーと、

様々な検定法を発見した偉人の人柄に触れることで、

検定法の意味と立ち位置がすっきり頭に入ってきます。

一度でも、統計学にひっかかりを覚えたことがある方には、

特にお勧めです。

(2010年4月に文庫本のタイプも出版されています。)

2010年10月2日土曜日

静かなリーダーシップ


ジョセフ・L・バダラッコ

静かなリーダーシップ


リーダーシップの方法論にはいくつもあります。

前回、最前線のリーダーシップで紹介した内容は、

比較的典型的な、リーダーシップの方法であったと思います。

今回紹介する内容は、よくあるリーダー像とは異なります。

しかし、現実的にはこういった状況を経験することの方が多い気がします。


以下抜粋

どのような分野にでも、偉大な人物、リーダー、ヒーローはいる。
大企業を築きあげた人物や変革した人、社会を変革する政治的なリーダー、
自分の命を危険にさらして他人を救おうとする消防士。。。
このような人物は皆、見習うべき見本として讃えられ、
リーダーシップを本当に実践している人々だと考えられている。

だが本当にそうだろうか?
私は経営とリーダーシップの研究を仕事としてきたが、ほとんどの場合、
最も実践的なリーダーは大衆のヒーローではなかった。
真のリーダーとは、忍耐強くて慎重で、一歩一歩行動する人、
犠牲を出さずに、自分の組織、周りの人々、
自分にとって正しいと思われることを、
目立たず実践している人だった。

わたしはいつしかこのような人を『静かなリーダー』と呼ぶようになった。

抜粋終わり


以下は、具体的な方法論の要約です。

『静かなリーダーシップ』

自分の価値観に基づいていきながら、

自分のキャリアや評判を危険にさらすことなく、

困難で深刻な問題を引き受けた人々に、

有益で実践的な発想を提供する


(1) 現実を直視する

すべてを知ることはできない(現実的になること、自分の理解を過大評価しない)

予想外の事態がある(計画に頼るが、計画を信頼はしない)

インサイダーに目を光らせる

信頼しても切り札は残しておく


(2) さまざまな動機を見直す

複雑でさまざまな動機が成功の鍵となる(健全な利己主義な感覚が必要)

動機が複雑なのは状況を本当に理解していると言うこと

行動の方向性を設定⇒自分が不適格だと考えない

⇒自分自身と自分の動機を信じる⇒自分にとってその問題が本当に重要かどうかを確認する


(3) 時間を稼ぐ

何とかして時間を稼ぐ方法を考える


(4) 賢く影響力を活用する

自分の影響力を危険にさらす前に、その、リスクと見返りをよく考える


(5) 具体的に考える

複雑な問題に直面すると、忍耐強さと粘り強さを持って、

自分が何を知っているのか、何を学ぶ必要があるか、誰からの支援が必要かを考える

物事が複雑でも職責は忘れない、とにかく良く考える、一人でしない、

時には時間を稼ぎ適切な人間に対処させる


(6) 規則を拡大解釈する

想像力と創造性を駆使して規則を拡大解釈する方法を探す

規則を真剣に考えながら、解釈の余地を探す


(7) 少しずつ行動範囲を広げる


(8) 妥協策を考える

忍耐強く、実践的に重要な価値観を守り、具体化する

妥協を考えることは、実践的な知識を習得して実行に移すことである

倫理観までも売り渡すような妥協に直面したときは断固反対することもある

大きな目標を達成するために基本的な倫理観をいくつか犠牲にすることもある


(9) 最後に重要な性格

多くの場合前提条件として自制心が必要である

謙遜する

粘り強く行う


ずいぶんと、現実的で、地味で、慎重であり、

それはヒーローとは大きくかけ離れた姿ですが、

現実の社会で、確実に実績を残していく人は、

こういった人たちのような気もします。